過去のアトリエの思い出、極楽通りと対岸の刑務所
もう一つ思い出深いアトリエが大学院時代に利用していたもので、サンフランシスコの少し北に位置した湾を望む風光明媚なところにありました。そこへ行き着くまでの道のりがまた見事で、まずゴールデンゲートブリッジを渡ってしばらく走り、そこから入り江沿いの道路、その名も「パラダイス通り」に乗って到着するというものでした。アトリエ自体も見応えのある簡素な木製の建物で、元軍の兵舎だったのが年月を経て角が取れたという印象でした。その三階部分を数人で利用していましたが、とにかく充実した時間でした。制作の合間には他の院生のスペースを訪問したり外を散歩したり、よく水際まで行ってただぼんやり対岸を眺めたりしました。私の視線の先に必ず止まったのが遠くに見える一連の白い建物群からなる刑務所施設*でした。いつも広い視界がそこで行き止まるような感覚を覚えました。また時には水面に目をやり近くでどなたか岸に向かって泳いではいないかと、のぞき込んだりしたものです。私のいるこの場所と刑務所を隔てるのは、この漂い変化し続ける水というものだけであるという事に詩的なものを感じたりしました。
*カリフォルニアの刑務所の歴史はゴールドラッシュに始まるようです。
